- 奥さんに先立たれたLさんは、自宅で元気に一人暮らしをしている。
- 二男・三男は遠方に住んでいるが、近所に長男家族の家があり、ちょくちょく会いに来てくれるので、今のところ生活に不安はない。
- Lさんは、もし自分が将来認知症になっても、できる限り自宅で介護を受けたいと希望している。万一の場合は自宅を売却して有料老人ホームに入居しようと考えている。
- その際、判断能力が低下して自分では契約することができない場合は後見制度を利用しなければならず、スムーズな売却ができずに長男をはじめとした家族に負担がかかるかもしれないとLさんは心配している。
- 長男、二男、三男の兄弟仲は良く、いざというときは長男家族に緊急対応や介護、財産管理を任せることに全員が納得している。
- その分、長男に財産を多く譲ることについても、二男、三男は了解している。
解決策
信託契約の締結
- 委託者=Lさん、受託者=長男、受益者=Lさん、信託財産=自宅不動産と一部の現金、とする信託契約を設定し、将来、Lさんが自分で自宅を売却することが困難になった場合、長男が受託者として自宅を売却できると権限を明記。
- Lさんが亡くなった時点で信託契約は終了し、残余財産は、長男に1/2、二男と三男に1/4ずつ帰属させる。
- 将来、Lさんが自分で自宅を売却することが困難になった場合、長男が受託者として自宅を売却できると権限を明記。
解決策の効果
- 信託契約を活用しないままだと、もしLさんに判断能力が無くなって、自宅を売却したいと思っても、家庭裁判所による成年後見人の就任や自宅売却の許可に時間がかかり、有料老人ホームへの入居スケジュールが崩れたり、家族に負担がかかったりする可能性があります。
- 信託契約を活用することにより、Lさんが認知症を発症した場合であっても、長男が売主として自宅売却の手続きを行いますので、タイミングを逃すことはありません。また、委託者および受益者はLさんなので、贈与税や不動産取得税が長男にかかることもありません。
- Lさんが亡くなって信託が終了した時点の残余財産の帰属先が指定されていますので、実質的にLさんが遺言を書いたのと同じ効果があります。ただし、遺言だと、今後Lさんの意思で内容を自由に変更することができますが、信託契約を活用することで、契約変更に受託者と受益者の合意が必要だと取り決めることや、残余財産の帰属先を変更できないようにすることも可能です。これにより、兄弟全員が納得した割合で、確実に遺産を配分することができ、民法上無効な「生前分割」を実質的に有効な形にすることができます。また、もし将来的に兄弟間に確執が生じても、Lさんの遺言の書き換え合戦が起こるのを防ぐことができます。
この事例は、宮田総合法務事務所様の下記HPの事例を参考にさせて頂き編集しています。https://legalservice.jp/shintaku.html