自分が亡くなったあとに遺産分割で遺族がもめないよう、遺言の作成を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。財産の大半を分割しにくい不動産が占める方や、事業を営んでいる方、家族関係が複雑な方などは、遺言を書いておくことが望ましいケースであるといえます。
自分の財産の行き先を誰にするかについて、本人の意思を明確にするという点では、家族信託も遺言も同じといえますが、効力が発生するタイミングや、それぞれができることは異なります。家族信託と遺言には、一般的に次のような違いがあります。
家族信託
遺言
- 契約により、本人の財産の管理や運用、処分などを信託することができる
- 家族以外にも財産管理を委託することができる
- 本人が亡くなったあとに、誰に何の財産を譲るか(譲らないか)指定することができる
- 相続人以外にも財産を譲ることができる
- 子どもの認知など、身分に関することも遺言できる
- 信託契約により、亡くなったときだけでなく、生前から効力を発生させることができる
- 信託契約により、亡くなったあとも、効力を継続させることができる
- 本人が亡くなったあとに効力が発生する
- 亡くなったあとに遺言が執行されれば、そこで遺言の効力は終了する
- 信託契約の締結には、委託者と受託者双方の同意が必要となる
- 遺言は遺言者の単独の意思で作成することができる(遺言の作成方法により、公証人による作成や証人が必要となる場合もある)
- 確実に契約内容が実行されるよう、信託管理人を指定することができる
- 確実に遺言が実行されるよう、遺言執行者を指定することができる
なお、家族信託契約と遺言の内容がバッティングする場合は、どちらが先に作成(締結)されたかにかかわらず、特別法である信託法に基づく家族信託契約が、一般法である民法で規定された遺言に優先されます。
また、「特定の相続人に全財産を譲る」といった遺言がなされた場合には、他の相続人が、法律上定められた相続分(法定相続分)の一定割合を取り戻すことができる「遺留分」という制度があります。家族信託が遺留分の対象となるかどうかについては、信託法や民法に明確な定めがなく、結論が出ていない状況にあります。現時点では、法令の趣旨を逸脱して公序良俗に反するとみなされないよう、家族信託の利用にあたっては、遺留分についても考慮しておくことが望ましいといえるでしょう。
金銭や有価証券、土地・建物、自社株など、財産の種類は多岐にわたり、個人の事情によっても、家族信託を利用した方がよいか、遺言を作成した方がよいか異なります。あなたやあなたの周囲の方が抱える問題を解決するために、「家族信託」と「遺言」の使い分けを検討してみませんか。