- Jさんは妻を亡くし、現在は、統合失調症を患って自活できない長女と二人で暮らしている。
- 長男は結婚して独立し、Jさんの家の近くに家族4人で暮らしている。二女は、外国人と結婚して海外に住んでおり、そのまま永住する予定。
- Jさんは自宅不動産や預貯金があるので、長女との生活資金に不安はないが、自分が衰えたときや自分の死後に長女が生活していけるか心配でたまらない。
- 万一のときは長男の家族が長女の面倒をみてくれることになっているが、長男に過度の負担をかけたくないとも考えている。自分が元気でいる限り長女との生活を維持し、自分の死後は生活保障のために長女にできるだけ財産を遺したい、そして長女に万一のことがあったときは、面倒を見てくれた長男家族に財産が渡るようにしたいと望んでいる。
解決策
①法定後見人選任申立て
- 今のうちから、長女のために、自分と信頼のおける司法書士の2人を成年後見人とする法定後見人申立てを行う。
②公正証書遺言の作成
【相続】
- 長男と二女に、遺留分に抵触しない範囲で金融資産を中心に相続させる。
【信託契約】
- 委託者=Jさん、受託者=長男、受益者=長女、信託財産=自宅不動産と残りの財産、とする信託契約を設定。長男は信託財産を長女のために管理し、必要に応じて財産給付を行う。長女は信託受益権を相続することとなる。
- 長女が亡くなった時点で信託契約は終了し、残余財産は長男家族に帰属させる。
【遺言執行者】
- 遺言執行者として、長女の成年後見人でもある司法書士を指定する。
解決策の効果
- あらかじめ、長女に信頼できる第三者を後見人としてつけておくことで、長男の負担を軽減しながら、Jさんの急病や急死という不測の事態に備えることができます。統合失調症を患っている長女には契約締結能力がなく、長女が自分で信頼できる第三者と任意後見契約を締結することはできないため、Jさんが長女に代わって信頼できる人を見つけ、法定後見人に就いてもらうことにしました。Jさんが元気なうちは、長女の身上監護と細かな財産管理はJさんが行い、後見人には家庭裁判所への定期的な報告についてサポートしてもらうこととしました。
- Jさんが亡くなったときは、後見人が遺言執行者として遺産をとりまとめ、相続人である長男と二女へ相続財産の引き渡しを行います。また、信託財産となる遺産についても、財産を管理する長男に引き渡します。その後は、長男が長女のためにきちんと財産管理しているか、後見人にチェックしてもらえるので安心です。
- 信託契約を活用せずに長女に自宅等の財産を相続させてしまうと、遺言を書く能力がない長女が亡くなったあと、法定相続人である長男と二女の間で遺産分割協議が必要となり、手間がかかるうえにトラブルに発展してしまう可能性が残ってしまいます。信託契約を活用することで、Jさんの希望通り、確実に財産を長女から長男とその家族へ移すことができます。なお、長女の遺産がすべて長男に渡ったとしても、兄弟姉妹には遺留分がないため、二女は権利を主張することができません。
この事例は、宮田総合法務事務所様の下記HPの事例を参考にさせて頂き編集しています。https://legalservice.jp/shintaku.html